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料理も遊びも仕事までも、すべてを一つの空間で

記事掲載:2020/06/05

新潟大学がある新潟市西区五十嵐は、海に近い高台の土地。 Eさんご夫婦はこのエリアに新しくできた分譲地に家を建て、3人の息子さんたちと家族5人で暮らしている。 E邸は、40坪の土地に立つ、階高を抑えた片流れ屋根の家。2台分の駐車スペースがあり、1台は建物に横づけするようなレイアウト。斜めに打たれた土間コンクリートが自然と車を誘導するようなデザインになっている。 

 ポーチには三角形の軒が建物から突き出すように伸びており、板張りの壁が白いシンプルな建物に表情を与えている。   

 
「家づくりを考え始めたのは、上の子が生まれた6年前でした。アパートに住んでいたんですが、私は早く自分たちの家が持ちたかったんです。でも当時は主人が『賃貸でいい』と考えていて。見学会や展示場に行ってもあまり乗り気にならなくて」と、奥様は数年前のことを思い出す。
 

 「数千万円のローンを組むことや、住む場所を固定化させるのに抵抗があり、賃貸でいいなと思っていたんです。でもその後2人目の子どもが生まれると、アパートが手狭に感じるようになって。それで、当時仕事でつながりがあったファイナンシャルプランナーの方に資金計画の相談をしてみることにしました。住宅会社の方からではなく、客観的な立場から資金面を見てほしかったからです」とご主人。 

それまでは漠然としたローンへの恐怖感があったが、ファイナンシャルプランナーに相談を進めて行く中で、段々と腹落ちするようになり、前向きに家づくりを考えられるようになったという。

アイランドキッチンを中心としたオープンな空間

 
「以前は同じ西区でも駅から遠い場所に住んでいました。公共交通機関の利便性が良く、水害の危険性が少ない高台に住みたいと思っていた時にこの土地を紹介してもらい、すんなりと決めることができました」(ご主人)。
「私たちは生活しやすい家がいいなと思っていて、広い家は望んでいなかったので、40坪の土地でちょうどいいと思ったんです」(奥様)。
家づくりは、紹介を受けて知り合った建築士の加藤淳さんと株式会社Ag-工務店の代表・渡部栄次さんに依頼を決めた。

左:渡部栄次さん(株式会社Ag-工務店)、右:加藤淳さん(加藤淳一級建築士事務所) 2019年11月に完成したのは、1階に水回りとLDK、そしてスタディーコーナーがある家。2階には将来3部屋に仕切れる子ども部屋と寝室があり、その上にはルーフバルコニーが設けられている。 

 
「あまり閉じた空間をつくりたくなくて、できるだけオープンな空間を希望しました」とご主人。南向きのLDKの中心にはアイランドキッチンが置かれており、キッチンからは部屋中が見渡せる。「私はキッチンに立っていることが多いですが、家族と一緒の空間に居られるのがいいですね」(奥様)。
 
床は幅広のオーク材で、ダークブラウンの塗装がごつごつとした質感を強調。壁は白いクロスと明るい色のシナ合板が組み合わせられ、爽やかさを感じさせる。
 

 
「キッチンにもシナ合板を張ることで、既製品のキッチンが浮かないようにしています。また、冷蔵庫をパントリーの中に隠したり、エアコンの高さを窓のラインにそろえたりと、細部にも気を遣って設計をしました」と話すのは加藤淳さん。(※より詳しい設計意図は、加藤淳さんのブログ記事参照)
 
「キッチンにシナ合板を張るのは初めてのことでしたが、これにより統一感のある空間ができあがりました」とAg-工務店の渡部栄次さん。
 

家族みんなで使える、開かれたスタディーコーナー

 
1階で最も特徴的なのが、階段を2段上がった場所にあるスタディーコーナーだ。
 

 
「家の中に、僕が仕事をしたり、子どもたちが勉強したりするオープンなスペースが欲しいと思っていました。オフィスで仕事をする時も周囲に人がいますから、家の中の仕事スペースも個室じゃなくていいと思ったんです。」とご主人。
 

 
「今は半分は子どもたちの絵本やおもちゃスペースになっていますが、ゆくゆくは家族みんなで並んで使いたいですね。この場所があるので、子ども部屋はあえて小さくすることにしました」と奥様は話す。
 
「僕は毎朝4時には起きて、ここで過ごすんです。自分一人になれるのはこの時間しかないので(笑)。普段の仕事の内、考える仕事をこの時間に集中してやったりもします」。仕事とプライベートを明確に区切らないのもご主人の働き方の特徴で、開かれたスタディーコーナーは、そんな価値観から生まれたものだ。
 
本当に一人で集中したい時は、早起きして家族と時間をずらすようにしている。
 
ちなみにスタディーコーナーの床はダイニングのベンチの役割もあり、空間の有効利用もなされている。
 

子ども部屋は1人3畳。寝るためだけのスペースに

 
階段を上がって2階に着くと、正面には本棚が据えられており、その奥に廊下が伸びている。
 

 
廊下に沿って3等分に区切られた収納スペースがあるが、これは3兄弟それぞれのクローゼット。
 

子どもたち全員が服を自分で片付けられるようになるのはまだ先だが、乾いた洗濯物は各自が自分のスペースに自分で収納するようにしてほしいと考えているそうだ。
 
9畳の子ども部屋には3つの引き戸が付いており、将来は壁で仕切って3畳ずつに分けることもできる。「部屋に籠もるのではなく、寝るときにだけ使う場所にしたい」とご主人。
 

 
奥様も「私の実家は、私たち子どもが離れて部屋が余っている状態。だから、子ども部屋は広くしないことで、将来的にフレキシブルに使えるようにしたいと思いました。そのあたりは、加藤さんにトコトン話を聞いてもらい設計をして頂きました」と話す。
 
さらに廊下を奥に進むと、突き当たりにあるのが寝室だ。
 

 
 7.5畳の空間には収納棚とハンガーパイプが設けられており、ロールスクリーンで目隠しすることができる。
 

 
また、2階の階段そばには3畳の納戸があり、そこからはしごを上がってルーフバルコニーに出ることもできる。
 

 
「打ち合わせの時に『屋根に出られたら面白いよね』という話が出て、それを叶えてもらいました。時々ここに上がって『スーっ』と外の空気を吸っています」とご主人。
 

 
周囲の家屋の屋根の向こうには海が見え、行き交う船や佐渡島も眺められる。展望台のような非日常的な空間は、夏に小さなビアガーデンのように使うのも楽しそうだ。
 

重視したのは、家族で時間と空間を共有する楽しさ

 
Eさん家族がこの家に暮らし始めて3カ月が経過した。「希望したことが全て叶って、家の全てが気に入っています。子どもたちもすごく楽しそうにしていますしね」と奥様は満足そうに話す。
 
「アパートは冬寒くて結露もしていましたが、ここに住んでそういう悩みがなくなりました。1階と2階にエアコンが1台ずつ付いていますが、今日みたいに日が照っていれば消しても暖かいです。基本的に戸をしめないので家じゅうが暖まりますし、朝早く起きても寒くないのがいいですね。逆に、暖かくて、乾燥し過ぎることが悩みです。加湿器を買おうか考えているうちに今年の冬は終わってしまいそうですが(笑)」とご主人。「脱衣所の物干しスペースに除湿器を置いているんですが、要らなかったかな…とも思います」と笑う。
 

1階のLDKは、家族それぞれが思い思いの時間を同時に過ごせる場所。
 
キッチンで奥様が料理をしている時、子どもたちはウッドデッキや床の上で遊び、ご主人は子どもたちに遊ぼうよとせがまれながらも、スタディーコーナーでパソコンに向かいながらひらめいた仕事のアイデアを書き留める。
 

天井に据えられたプロジェクターで壁に映像を投影すれば、LDKは家族だけのミニシアターにもなる。
 
E邸では、家族で空間を共有することに重きを置いた結果、延床面積30坪の中に、明るく楽しいLDKが叶えられた。その代わり、2階の個室は最小限に収めるというメリハリが効いている。
 
一人で所有することからみんなで共有することへ、世の中の価値観が変わりつつあるが、E邸にはそんな時代の感性が現れている。Eさんご夫婦は、従来の家の在り方を疑い、自分たちが望む暮らしを真剣に見つめ、それを家づくりのプロたちに伝えた。
 

 
「私たちの問いや希望を真摯に受け止めた上で、こだわりを持って提案をしてくれる姿勢を見て、加藤さんと栄次さんにお願いしたいと思いました。快適性を高めるための熱交換型換気システムなど、ご提案を頂いたものもすっと飲み込むことができ、満足できる家が完成したと思います」とご主人。
 

3人の幼い子どもたちを育てる暮らしは、日々慌ただしさとの格闘かもしれない。しかしながら、E邸から感じられたのは、どこか肩の力がすっと抜けるような大らかな空気感。
 

 
遊び心も大事にした設計に、大工職人による手仕事がふんだんに盛り込まれた優しい空間が、家族に幸せな日常をもたらしている。
 

E邸

新潟市西区

延床面積 98.51㎡(29.74坪)、1階50.89㎡(15.36坪)、 2階47.62㎡(14.38坪)
竣工年月 2019年11月
設計 加藤淳一級建築士事務所
施工 株式会社Ag-工務店
(写真・文/Daily Lives Niigata鈴木亮平
 


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