記事掲載:2019/05/18
本記事はDaily Lives Niigata編集部による取材で2019年2月に作成をした記事です。
2015年に独立開業した加藤淳一級建築士事務所の加藤淳さん、2002年から個人事業主の大工になり2017年に法人化した株式会社Ag-工務店の渡部栄次さん。
設計と施工、それぞれが専門分野に集中しながら連携して家づくりを行っています。特徴的なのは、どちらか一方だけが目立つわけではなく、それぞれが自社WEBサイトでしっかりと情報発信を行っていることです。
家づくりにおいて、営業マンの顔は見えるけど、設計や施工の担当者はよく知らなかったり、設計者か施工者のどちらかにしか会わなかったりというのはよくあること。
しかし、加藤さんと渡部さんは、両方が前面に出るスタイルです。
設計と施工。建築において最も重要なこの2人のプロフェッショナルと一体感を持って一緒に家づくりができるのが特長です。
今回、昨秋リニューアルしたAg-工務店の事務所に訪問し、お二人にお話をうかがいました。
――では最初にお二人がどのようにして一緒に仕事をするようになったのか、その経緯について教えてください。
加藤:私は元々埼玉出身で、大学卒業後に福島で建築の仕事をし、その後新潟に移り住んで新潟市内の工務店に入りました。その時に仕事を通じて栄次さんと知り合いました。
その後独立をしたんですけど、ちょうど栄次さんの元請けとしての仕事が増え始めたタイミングと重なったんです。
加藤淳一級建築士事務所・加藤淳さん。1972年生まれ。埼玉県出身。工務店・設計事務所勤務のほか、青年海外協力隊で海外の大学の講師を務めた経験を持つ。2015年に独立。
渡部:初めて一緒に仕事をしたのが、長岡市の「喜多町の家」でしたね。幼なじみからの依頼だったんですが、自分は大工としてやってきたので設計力が弱いというのがあり、施主である友人もそこを心配していました。
そこで、加藤さんを連れて行って紹介をしたら安心をしてくれて。自分も加藤さんの仕事ぶりを信頼していたのはもちろん、人柄もよく知っていたので安心感がありました。
株式会社Ag-工務店・渡部栄次さん。1977年生まれ。阿賀町出身。デザイン住宅から純和風までさまざまな住宅会社の施工を請け負ってきた経験を生かし、木造住宅の新築・リフォームを行う。2017年に法人化し、株式会社Ag-工務店を設立。
加藤:「喜多町の家」は独立して最初に依頼を頂いた仕事でしたが、設計事務所として住み手にどのような住まいを提供できるのかをじっくり考えるいい機会になりました。
それに、栄次さんが住み手のことを考える中で、設計の考え方を大事にしてくれたのがすごく嬉しかったですし、その後も一緒にいい家をつくっていけると思いましたね。
渡部:もちろん施工側の視点での意見は言いますが、設計者としっかり連携して施工することでいい家ができるのは経験で分かっていました。
加藤:お施主さん家族がとても満足されていて嬉しかったですね。「喜多町の家」がお互いにとっていい実績になり、その後も実例をホームページに少しずつ増やしていくごとに依頼も増えていくようになりました。
渡部:ホームページを作ったのもここからですね。今に繋がる最初の仕事だったので、「喜多町の家」は自分にとってすごく大きな意味をもっています。
「喜多町の家」(写真提供:Ag-工務店)
――設計と施工で役割分担をして仕事をすることのメリットについて教えてください。
加藤:それぞれが独立していることで、設計は設計の立場で提案やチェックができますし、施工も施工の立場で提案やチェックができることですね。どちらかの立場に偏らないので、お客様にはより良いものが提供できるのではないかと思っています。
渡部:あとは、それぞれが自分の専門分野に集中できるというメリットがありますね。独立してやることで責任の大きさを感じますし、常にいい緊張感があります。
――お二人とも前面に出ているイメージですが、お客さんとの打ち合わせはどのように進めているのですか?
加藤:それはお客さんが望む打ち合わせの方法によって変わりますね。例えば、設計寄りの相談で私の方にいらっしゃる方は私がメインで打ち合わせをして、時々栄次さんにも来てもらうようにしています。現場で「初めまして」ではなく、設計段階を共有するようにしていますね。
逆に、「大工さんに頼みたい」というお客さんの場合には、私はあまりお客さんの前には出ていかないこともあります。大工さんには言いやすいけど、建築士が出ることで、要望が言いにくくなるということもありますので。
お客さんの求めていることによって柔軟にその度合いを変えています。
――次に、お二人が家づくりで大事にしている考え方を教えて頂けますか?
加藤:重要度順に言うと、一に構造、二に省エネ性能・断熱性能、三にデザインです。やっぱりまずは命を守れることが大事だし、次に住み心地が大事です。最後にデザインが来るのかなと。でも、構造と性能をしっかりと考えていくと、自然とデザインも良くなっていくと考えています。
デザインを決めるのにはいろいろな要素がありますが、一番影響してくるのが敷地条件です。そこに家族の夢やライフスタイル、10年20年後どう住んでいくのか…、色んな要素を鍋に入れてぐつぐつ煮込んでいくとデザインになるのかなという考えでやっています。その突き詰めていく作業は苦しいことでもありますが、いいプランが導き出せた時が設計冥利に尽きる瞬間です。
逆に、装飾的過ぎるデザインや奇抜なデザインをしようとは一切していないですね。
渡部:まず、家づくりは建てて引き渡して終わりではなくて、一生付き合っていくものだと考えています。だからこそ、表側の見える部分だけでなく、壁の中などの見えなくなってしまう部分にも力を入れていますね。断熱施工とか木の使い方とかです。
例えば木は反ってる方向を考えながら取り付けるとか、安くて曲がっている材料ではなく、ちょっと高くてもねじれなどの狂いがないものを選ぶなど、後々に不具合が出ないように心掛けています。
あと、お客様に満足してもらって感謝されるような仕事をしたい、というのがありますね(笑)。
そして、一生いい関係で、友達感覚で付き合って頂けたらいいなと思っています。何か不具合があった時も、友達に声を掛けるような感覚で遠慮せずに何でも言ってほしいですね。
やっぱり「つくってもらって良かったです」と言われたいし、そこがこの仕事のやりがいです。だからこそ、家の質を高めていきたいと思っています。
――お互いにプロとして尊敬しながら仕事をしていると思いますが、相手のことを「さすが」と思ったエピソードはありますか?
加藤:自分の図面が伝わりにくかったというのもあるんですけど、施工時に窓の高さが少しだけ間違っていたことがありました。それを直すのはものすごく手間が増えて大変なことなんですけど、お客様により良いものを提供するためということをお伝えしたら、すぐにやり直してもらえたんです。一緒にいいものをつくりたいというベクトルが一致しているのを強く感じましたし、男気を感じました。
渡部:直すことがお客さんのためであるというのはもちろんですし、細かい部分を丁寧に設計してもらえるというのが、設計のプロである加藤さんに頼んでいる理由なので、そこは迷いがなかったですね。
それに、大工には分からない細かい納まりなどの考え方を、加藤さんと一緒に仕事をすることでどんどん養っていけています。
加藤:あと、実際に現場で手を動かす視点で栄次さんからいい提案をしてもらったりもしています。例えば玄関の斜めのラインに合わせて、土間を仕上げる新しい方法を提案してもらったり。設計の意図をくみ取ってもらったうえで、現場にいる栄次さんだからこそ気づけることでした。
他にもどういう材料を使って仕上げるか、どう納められるか?などはお互いにアイデアを出しながら進めていくことも多いですね。
――二人でピンチに陥って乗り越えた体験はありますか?
渡部:去年リノベーション工事をやった時ですね。補助金申請の関係で2月末までに完了しなければならない工事だったんですが、大雪が続いていて屋根の架け替えがなかなかできなかったんです。ギリギリ間に合いましたが、あの時はヒヤヒヤしました。
加藤:リノベーションは解体してみないと分からないことも多いんですが、壁を壊してみたら柱がなかったり、基礎に問題があったり…と、想定していたよりも直す部分が多くなっていたのも重なってしまい。
ものすごく対応力が求められる工事でしたが、二人で解決策を考えながら期日までに完了することができました。
渡部:設計と施工を行う自分たちが直接お客さんに説明して進められるので、ピンチでもスムーズに対応できたと思います。
――これまで一緒に手掛けた住宅で、特に印象に残っている住宅はありますか?
渡部:自分はやはり一番最初の「喜多町の家」ですね。あそこから加藤さんと一緒にスタートしたので。あの時に加藤さんと一緒にいい家をつくれたことで、今があると思っています。
加藤:あと自分は2015年に竣工した「江南の家」ですね。階高を抑えプロポーションをきれいにしつつ、耐震等級3をクリアしたり、天井高を抑えながらも視覚的な広がりを感じられるようにしたり、光の採り入れ方を工夫したり。
今でもホームページを見て興味を持ってくださる方が多いです。
「江南の家」(写真提供:加藤淳一級建築士事務所)
――では最後に今後どのような家づくりを目指していきたいですか?
加藤:ちょっと抽象的なんですが、居心地の良さを感じられる家を追求したいと思っています。なんかほっと落ち着くとか、自然に肩の力が抜けるとか、そういう空間ですね。開口の取り方や天井の高さ、そして敷地をいかに読み解くかが重要になってくるのかなと思っています。
渡部:温かいとか住みやすいとか、性能や設計が優れていることが大事なんですが、そのためには建材の性能を引き出したり、設計の良さを実現するための施工が重要だと考えています。
いい食材があっても、その味を引き出せるかどうかが料理人の腕に掛かっているのと同じです。
あと、現場では自分たち大工以外にも色々な職人さんが仕事をしますが、なるべくみんなが楽しく仕事ができるようにしたいと思っています。
自分がかつて下請けの仕事が中心だった時、現場を仕切る人次第で現場のムードが明るくなったり、逆に悪くなったりしているのを感じてきました。
和気あいあいとした楽しい雰囲気があるといい仕事ができるし、それがお客さんのためになることを分かっているので、現場の雰囲気を大事にしていきたいですね。
今回のインタビューで、改めてお二人の家づくりの考え方を詳しくうかがうことができました。
設計と施工、それぞれのプロと密なやり取りをしながら家づくりを進めていく。そんな家づくりを考えている方は、問い合わせてみてはいかがでしょうか?
写真・文/鈴木亮平( Daily Lives Niigata)